ストーリー以外にも
色々な楽しみ方があるのが、
映画の魅力のひとつ。
この記事では、
ため息がでるほど映像が美しいと
話題になっている、
『君の名前で僕を呼んで』
『ムーンライト』
『女王陛下のお気に入り』
のみどころをご紹介します。
北イタリアの牧歌的な描写が美しい『君の名前で僕を呼んで』
17歳の少年と大学生の青年の、
みずみずしい恋模様を描いた作品で、
第67回ベルリン国際映画祭の
パノラマ部門で上映され、
第90回アカデミー賞で脚色賞を受賞した話題作。
製作背景
原作はエジプト出身の作家
アンドレ・アシマンによる小説
「Call Me by Your Name」。
脚本を務めたジェームズ・アイヴォリーが
まず脚本の執筆を始め、
その後、イタリア人映画監督ルカ・グァダニーノを迎え、
本格的に製作が開始。
あらすじ
1983年の北イタリア。
17歳のエリオ・パールマン
(ティモシー・シャラメ)は毎年夏休みの間、
家族と別荘で過ごしていた。
そこへ大学教授の父が、
大学生の青年オリヴァー(アーミー・ハマー)を
インターンとしてに招き、
エリオはオリヴァーと6週間、同じ屋根の下で過ごすことに。
初めはオリヴァーを嫌っていたエリオだが、
交流を深めていく中で、彼に対し特別な感情を抱いてく。
絵画のような美しさ
ひとつひとつのシーンが
まるで絵画のように美しい本作。
北イタリアの街並みや、
青々しい木々から差し込むまぶしい光、
透明感あふれる川、神秘的な夜の闇…。
どのシーンを切り取っても絵になる美しさがあります。
グァダニーノ監督は2018年のインタビューにて、
映像の美しさについて次のように語りました。
「私はジャン・ルノワール(フランス人の映画監督、)と、
ベルナルド・ベルトルッチ
(イタリア人の映画監督)の映画に登場する
田舎の風景が好きなので、
それを参考にして、田舎の風景を取り入れた」
ちなみに、監督が名前を挙げた
ジャン・ルノワールは、
画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールの
息子。
グァダニーノ監督のアートな感性のルーツは、
彼による部分が大きいのかもしれません。
二人の親密度における距離の表現法
想いを寄せるエリオが、
なかなかオリヴァーに近づけず遠慮するシーンや、
想いが叶ってからもいたずらっぽく接するシーンなど、
二人の関係の親密度を表す距離感の表現が
とても印象的なところも本作の魅力の一つ。
また、果物の桃を使って、2人のセクシャルな関係を
間接的に表現したシーンはとても斬新。
間接的な表現について監督はインタビューで、
「初恋の純粋さを伝える上で、
直接的な表現は避けた」と語っています。
加えて、「この作品はゲイロマンスではなく、
欲望の物語」とも語っており、
男性同士の閉鎖的な性愛ではなく、
男女問わず誰でも共感できる内容
であることを明かしていて、
人間が持つ「欲望」という普遍的なテーマを、
どこまでも美しく描いた映画といえます。
出演者:ティモシー・シャラメ アーミー・ハマー
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:ジェームズ・アイヴォリー
公開年:2017年
製作国:アメリカ、イタリア、フランス、ブラジル
厳しい現実描写と青のコントラストが美しい『ムーンライト』
孤独を抱える黒人の少年が、
自分の居場所を見つけるまでの過程を描いた
ヒューマンドラマ。
第74回ゴールデングローブ賞で6部門にノミネートされたのち、
映画部門で作品賞を受賞し、世界中から注目を集めます。
さらに、第89回アカデミー賞では
8部門にノミネートされ、
作品賞、脚色賞、助演男優賞の
4部門を受賞しました。
製作背景
ジェンキンス監督が、アメリカ人劇作家
タレル・アルヴィン・マクレイニーの
半自伝的な脚本
「In Moonlight Black Boys Look Blue」と出会い、
自分の幼少期とまるで同じ内容の脚本に運命を感じ、
映画化に乗り出す。
その後、マクレイニーとジャンキンスは
互いの経験を語り合い、物語に取り入れていきます。
実話をもとにしたリアリティあふれるストーリーは、
映画批評家たちの心を射抜き、
数々の映画批評サイトでも満足度98%という
異例の評価を獲得しました。
あらすじ
アメリカフロリダ州マイアミ。
いじめられっ子の少年シャロンは、
かんしゃく持ちの母親と暮らし、
悲惨な毎日を過ごしていた。
ティーンエージャーとなったシャロンは、
幼馴染のケヴィンに恋心を抱くようになるが、
とある悲劇がシャロンを襲う。
ヒリヒリするような厳しい現実の中で育まれる強さ
本作では、危険地帯における暴力や薬物、
差別の実態もあわせて描かれており、
貧困地帯のセクシャルマイノリティの
厳しい現実が生々しく描かれています。
目をそむけたくなるような悲惨な描写。
「自分の人生は、自分で切り開くことができる」
という強いメッセージを感じる映画です。
月光を思わせる青の映像美
太陽の光や海のきらめき、
木々の青さも、もちろん美しいのですが、
特に印象的なのは、登場人物たちの青く光った肌。
青く光った肌の美しさは、
カラーリスト(映像の色彩を調整する技師)が
色彩のコントラストの比率を上げ、
さらに肌表面に青い色を足すという
特別な手法によって作られています。
原案の戯曲
「In Moonlight Black Boys Look Blue
(月明かりの下で、黒人の子どもは青く見える)」を
精緻に映像化したもので、
監督はインタビューで
「戯曲の中の“夜”はシャロンが最も落ち着ける場所。
普通なら、青といえば“哀しみ”を意味するけど、
原案では哀しみのほかに“美しさ”も描いていた。
だから映画でも、
シャロンがありのままの自分でいられる、
月明かりの下を美しく描いた」
と語っています。
「薬物」「いじめ」「暴力」「差別」という
テーマを扱っているからこそ、
映像の美しさが映える本作。
この美しさを本編でぜひご覧ください。
出演者:トレヴァンテ・ローズ ハマーシャラ・アリ
監督:バリー・ジェンキンス
脚本:バリー・ジャンキンスほか
公開年:2016年
製作国:アメリカ
ブラックユーモア×女性たちの骨肉の争い|『女王陛下のお気に入り』
18世紀のイングランド(アイルランド)王国の
アン王女をとその側近の女性たちの
人間模様を描いた歴史映画です。
第91回アカデミー賞で、
9部門で10の賞にノミネートという最多記録を更新。
主演女優のオリヴィア・コールマンが
主演女優賞を受賞しました。
製作背景
第68回ヴェネツィア国際映画祭の
審査員賞含む3冠を受賞した、
2015年公開の映画『ロブスター』でおなじみの、
ヨルゴス・ランティモス監督による最新作。
ランティモス監督は、
3人の女性による複雑な群像劇という
斬新な脚本にほれ込み、
監督を引き受けたそう。
撮影は主に、イギリスのハートーフォードシャーで行われ、
15世紀末の建造物である
ハットフィールド・ハウスの部屋に
美術品やカーテンなどの小道具を持ち込み、
歴史感じる空間を再現し、
物語の世界観を見事に表現しました。
あらすじ
18世紀初め。
当時のイギリスはオーストリアと手を組み
フランスとの戦争中であった。
体調が優れないアン女王(オリヴィア・コールマン)は
側近のサラ・ジャンキンス(レイチェル・ワイズ)に、
政治や身の回りことまで
頼りっぱなしの毎日を送っていた。
しかしある日、
没落貴族の娘アビゲイル・メイシャム
(エマ・ストーン)が屋敷にやって来て、
アン女王の傷の手当てをする。
やがてアビゲイルは女王にだんだん気に入られいていく。
嫉妬したサラはアビゲイルに対抗心を燃やすが…。
広角レンズと魚眼レンズで窮屈な世界観を表現
撮影監督のロビー・ライアンは、
超広角レンズを使って、
閉鎖的な宮廷の世界観を表現しました。
超広角レンズを通すと、
画面がまるで1枚の絵のように、
窮屈な雰囲気が醸し出されるのです。
さらに魚眼レンズに切り替えることで画面が歪み、
宮廷で何不自由ない生活を送る女王たちの、
いらだちや不満、歪んだ愛憎が表されています。
時おり映り込む下から見上げるようなアングルは、
まるでアン女王が飼っているウサギたちが、
人間たちのくだらない日常を
冷ややか目で眺めているかのよう。
ブラックユーモア満載のシュールな世界観
本作ではパンチの効いた
ブラックユーモアを頻繁に登場させ、
シュールな世界観を作り出しています。
ランティモス監督の作品はどれも刺激的で、
笑いとシリアスの絶妙なバランスが特徴。
『ロブスター』では、
子孫繁栄が義務付けられた近未来が舞台。
恋人を見つけなければ
動物の姿に変えられてしまうという
奇想天外な物語を描きました。
本作でも、2人の美しい女性が
不細工で頭の悪い女王を取り合うという、
一風変わった愛憎劇を、
刺激的なユーモアを交えて描いています。
物語序盤で、
アビゲイルが馬車の中の男性に肥溜めに突き飛ばされたり、
女性陣が薄化粧なのに対し男性陣が厚化粧だったり、
時代設定が18世紀なのに、
「Fワード」含む現代的なスラングを連発したり…。
「これって笑っていいの?」と
思わず迷ってしまうような描写が
随所にありますが、
観ているうちになぜかクセになってしまう。
そんな不思議な魅力のある映画です。
出演者:オリヴィア・コールマン エマ・ストーン
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:デボラ・デイヴィスほか
公開年:2018年
製作国:アイルランド、アメリカ、イギリス
ストーリだけじゃない映画の楽しみ方
作品ごとに、映画のテイストや世界観は大きく変わります。
ストーリーだけではなく、
カメラワークや、色づかい、
構図の違いに注目するのも
映画の楽しみ方の一つ。
今後もaround編集部では、
映画情報をピックアップしてくので、
ぜひチェックしてください!
<映画情報>
コメントを残す