あなたの行動の8割は「無意識」が決めている!知らないと損をする「行動心理学」とは?

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ささみ

経営者兼フリーライター兼コンサルタント。大手企業のマーケティング部門で管理職として20年勤務後、産業心理学や行動経済学を武器にフリーで活動。スマトラ津波のドキュメント本やシニア再就職本など出版も多数。現在は不動産投資家としても活動中。


あなたの脳内には二人の人格が存在しています。

「突然、何のことを……。」と思われる方もいることでしょう。

まずは、この算数の問題にあまり時間をかけずに考えてみてください。

「バットとボールはセットで1ドル10セントします。バットはボールより1ドル高い。

 ボールはいくらですか?」

 

二つの思考の人格を紐解いた「行動心理学」とは

ボールは10セントだと答えた人はいるでしょうか?

むしろ、多くの人が10セントと答えたのではないでしょうか。

しかし正解は、ボールの値段は5セントです。丁寧に計算式を紐解きます。

 

1.05(バッドの値段)+0.05(ボールの値段)=1.10(総額)なので、

1.05(バッドの値段)-0.05(ボールの値段)=1.00(差額)となります。

ゆえに、バットの値段は1.05(1ドル5セント)、ボールの値段は0.05(5セント)が

正しいのです。

 

「少し考えれば分かるのに」と落ちこむかもしれませんがその必要はありません。

この問題は、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など超名門大学の学生たちも、

50%以上が「10セント」と間違った答えを出したのです。

これは、認知心理学者であるプリンストン大学のダニエル・カーネマン教授が、

50年間以上、人々に問い続けてきた問題です。

 

ダニエル・カーネマン(以下、カーネマン)は、2002年にノーベル経済学賞を

受賞しています。

なぜ心理学者であるカーネマンが、経済学賞を受賞したのでしょうか。

 

当時経済学は「人間は経済的合理性に基づいて行動する」という前提に立っていました。

しかしカーネマンは、人間の脳がいかに非合理的で思考停止してしまうかという、

数々の理論・モデルを証明しました。

合理的であると言われた経済学の世界に、ヒューマンエラーの概念を持ち込んだのです。

人間は「非合理の言動を取ってしまう」生き物なのだと。

そこからカーネマンの学問は、経済学のみならず脳科学など様々な分野に

展開していきます。

今回解説するのは、主に日常行動で現れる無意識の世界、「行動心理学」です。

 

さて、冒頭のクイズの「考えれば分かる」というフレーズに、

人間の脳や心理を理解するヒントがあります。

 

こんな現象が起こるのは、人間の脳には「速い思考」と「遅い思考」

という2つの思考回路があるからです。

カーネマンは著書『ファスト&スロー』の中で、その思考回路を

「システム1(速い思考)」と「システム2(遅い思考)」と名付けています。

 

たとえば、「2×2=」という数式を見ると、義務教育を終えた人であれば、

なにかを意識することなく瞬間的に答えが分かるでしょう。

これが「7×9=」あたりになると瞬間的に分からない人が増え、

「34×19=」となると、普通の人は少し考えないと分らないでしょう。

 

このとき、前者で働いているのがシステム1、後者で働いているのがシステム2なのです。

 

カーネマンはこの2つの思考を、人格でユニークに例え

「でしゃばりのシステム1」「怠け者のシステム2」と述べています。

 

出しゃばりの人格:システム1

「システム1」は自動的に高速で働き、努力はまったく必要としない思考です。

また、自らコントロールしている感覚も一切ありません。

システム1が働く領域は、「突然聞こえた音の方角を感知する」

「ガラガラに空いた道路で車を運転する」「視覚的に、短い文字を理解する」

という内容です。

親しみやすい表現では「直感」です。過去の経験や思い込みで本能的かつ、

無意識に判断を行っているのです。

 

例えば、赤い色を見たら「アラーム」や「警告」と思ってしまうのは、

幼いころから「信号の止まれ=赤」などと、赤い色が使われている場面を見た経験の

積み重ねゆえです。

また、日本人の多くは「魚の絵を描いてください」というお題に、

頭が左に来て尾が右に来ます。他の国で同じ実験をやると、

左右の比率が逆になる場合もあります。

 

つまりシステム1は、経験を通じて無意識に刷り込まれていることが多いのです。

放っておいても勝手に働くため「出しゃばり」なのです。

だいたいは当たっているのですが、冒頭のバッドとボールの値段のように、

うっかりミスをしたりもします。

 

システム1を分かりやすく人格化すると、「組合ですぐにしゃしゃり出るおばちゃん」

「クラスでいつも言い出しっぺ(だけど、計画倒れに終わりがちな)ガキ大将」

みたいな人です。

 

怠け者の人格:システム2

「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な思考です。

また、システム2は意図的に作動させる必要があります。

 

システム2が働く領域は「聞こえた音の音階を探る」「混雑した高速道路を車で走行する」

「あるページにaの文字が何回でてくるかを数える」という内容です。

 

分かりやすい表現では「熟考」です。

直感や過去の経験だけでは対処できないため、新たに脳を活性化させて、

意識的に判断を行っているのです。

 

例えば、毎日使う通勤経路の道などは、「今日のお昼は何を食べようかな」

などと他のことを考えていても自然に歩くことはできます。

しかし「初めて行く街に重要な面接のために向かう」場合は、

事前に地図を確認し必要な時間を見積もります。

実際に駅を降りてからも、慎重にランドマークなどを辿りながら歩くことでしょう。

これがシステム2なのです。

 

同じ地形・同じ場所であっても、人によってシステム1とシステム2と

異なる思考を使っていることになります。

熟慮は疲れる作業なので、なかなか出てこないシステム2は「怠け者」なのです。

 

システム2を分かりやすく人格化すると

「聞いたら誰よりも深く案を考えているけど、自分からは口を開かないプランナー」

「すごく優秀なのに、働くのがイヤで週に数回しか出社しないエリート」

みたいな人です。

 

2つの人格は日常でこう現れる

成人した人間が、日々何かを考えたり意思決定するのは、

すべてシステム2の働きのように思われるかもしれません。

ところが人間の意思や行動は、驚くほどにシステム1に制約されているというのが、

カーネマンの最大の主張です。

日常生活の実に約8割は、このシステム1が占めているのです。

 

システム1とシステム2は、私たちが目覚めているときは

つねにオンになっています。

オンの状態としては、システム1は自動的に働き、

システム2は作動が低レベルの省エネ低モードで作動しているイメージです。

 

2つのシステムは互いに影響を及ぼしあっています。

直感的に働くシステム1は時にバイアスを生み出すこともあります。

複雑な問題を、単純で分りやすい問題に勝手に置き換えてしまったり、

客観的な論理や統計からは外れた判断を、瞬間的に行ってしまうことがあります。

このようにシステム1は騙されやすいので、システム2はシステム1が

判断したことを監視し、制御しなければなりません。

ただ常にシステム2が監視できるとは限らず、どんな偉い人でも

システム1によるヒューマンエラーを引き起こしてしまうことが証明されています。

 

そもそも、人生には物事を瞬時に判断しなければいけない場面が山ほどあります。

いちいちじっくり考えていたら、場合によっては車にはねられて

死んでしまったりもするでしょう。

 

これが、人間の不合理な行動を生み出してしまうカラクリで、

「日常の言動の8割が無意識(=システム1)に支配されている」ことにつながるのです。

 

抗えない!?日常のあやまった判断

繰り返しますが、システム1は無意識の世界です。

たとえば前述した「赤い色を見て、アラームを感じる」ことは、

なかなか意識的に制御できませんし、黄金比や白銀比なども

システム1を利用した表現方法です。

 

日常生活に潜む「8割の無意識」を注視すると、

その8割を「うまく使われてしまっている側面」と

「うまく使っている側面」の二つが見えてきます。

その2つの側面を紹介します。

 

買い物などの日常に潜む行動心理学の罠

「買おうと事前に決めていたモノ以外を、なぜか買ってしまった」

「いま必要なモノではないが、ついつい買ってしまった」

こんな経験は誰しもあることでしょう。

これが、無意識の8割を「うまく使われてしまっている側面」です。

 

カーネマンがノーベル経済学賞を受賞したように、

経済が絡む「消費」場面に、行動心理学は強く影響を及ぼします。

私たちが普段買い物をする場、スーパーマーケットやデパート、

あるいは通販サイトの裏側にはマーケターと言われる人たちが存在します。

マーケター達は行動経済学のテクニックを活用し、消費者の「うっかり買い」を

誘発する巧みな罠を仕掛けているのです。

 

なおそれらの罠は、少額な日用品に仕掛けられていることが多いです。

なぜなら高額な買い物の場合は、私たち消費者は「複数の商品を比較しよう」や

「どれくらいで価格の元を取れるか算出しよう」など、否応なくシステム2を

稼働させるからです。

 

コンビニのレジ売り場、デパートのバーゲンセール、通販サイトのカートフォームなど

身近な場面に、実に巧妙な行動心理学の罠が仕掛けられています。

そのカラクリを知っていると、「無駄な消費」や「うっかり買い」が減って、

節約できるかもしれませんよ。

 

コミュニケーションに潜ませる行動心理学のテクニック

「あの人はお願いごとが上手い。どうしたらスルっと要求が通せるのか」

「特にルックスが良いわけではないものの、なぜかあの人はモテる」

こんな思いを誰かに抱いたことはありませんか?

これが、無意識の8割を「うまく使っている側面」です。

 

昨今はビジネスや恋愛、人間関係などの多くの場面で、

「行動心理学」の言葉を耳にするようになりました。

行動心理学は人間の行動のルールを追究しています。

「あるしぐさをしたら、ある感情を抱いている」

という行動から人間の気持ちを理解するというアプローチを取ります。

それゆえ、行動心理学は対人コミュニケーションに応用しやすいのです。

 

現代社会では、人が絡む問題構造が複雑化されがちです。

「難易度の高い企画案件を経営に打診する」や

「過去に友人とイザコザのあった人を好きになった」などです。

このような一筋縄ではいかない案件ほど、誰しもシステム2を駆使して解決に挑みます。

そんな裏側で、しぐさや表情、言葉の使い方でその人の心理をコントロールする

システム1の領域が、逆に思わぬ効果を生むことがあるのです。

 

行動心理学を使って、いきなり優秀な仕事人になったりモテモテになったり

するわけではありません。ただ、「ちょっとしたお願いごと」や日常の

コミュニケーションには活用できる場面があります。

なかなか人とのコミュニケーションがうまくいかない、

という人は行動心理学のテクニックを試してみるとよいでしょう。

 

二つの人格とうまくつきあうために

自分の行動の8割が無意識に支配されていると聞くと、

恐ろしいと思われる方もいるかもしれません。

いつでも理知的なシステム2を発動し、的確な判断をしたいことでしょう。

しかし、カーネマン曰く「システム2は上限がある予算」のようなものなのです。

無制限に使えないからこそ、「ここぞ」という効果的な場面に絞って

予算配分するべきなのです。

 

行動心理学を知れば、「無意識に騙される」などヒューマンエラーを防げる

ディフェンス効果だけでなく、オフェンス側に回れば良好な人間関係も構築できるかも

しれません。

 

そこまで大げさではなくても、行動心理学は老若男女問わず、

人間だれしも当てはまるテーマです。

ちょっとしたウンチク・ノウハウとして知って損はないと思います。

話題作りの引き出しの一つに「行動心理学」を取り入れてみてはいかがでしょう。

 

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