アナログのここち良さ|万年筆のココが好き!失敗しない選び方とは

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Stilografica

若い時は海が好きで横浜に引っ越し、今は緑に囲まれた生活がしたいと那須にやって来ました。 サックスプレイヤー、web ライター、そして万年筆コレクターでもあります。


みなさんは万年筆は持っていますか?

筆者と万年筆の出会いは幼少期までさかのぼります。

 

私の父は毎年12月に入ると年賀状を書き始めるのですが、

仕事のかたわら近所の子どもたちを集め書道教室を開くほど筆が達者で、

200枚以上ある年賀状は全て筆書きしていました。

ところがある年、突然、筆に替えて万年筆を使い始めたのです。

初めて見る万年筆はとても堂々としていて、気軽に触れてはいけないもののように

感じたのを覚えています。

 

2度目の出会いは、かなりの時が経ち50代半ばの頃でした。

直木賞発表のTVニュースを視ていた時に、突然「自分も小説家になりたい!」

という衝動を覚え、ちょっと変ですが作家になるにはサイン用の万年筆が必要だと

考えたのです。

そして購入したのが PILOT カスタムヘリテイジ 91 で、ペン先は極太の「BB」。

 

極太のペン先から流れ出る潤沢なインク、なめらかに紙の上を滑る感覚、

書いた後に現れる美しいインクの濃淡のここちよさと幼い日に見た

父親の思い出が重なり、万年筆は私にとって特別な存在になったのです。

 

今回は、万年筆に魅入られた筆者の目線で万年筆の素晴らしさを紹介します。

新型コロナウイルスの影響でリモートワークが広がり、ますます手書きの機会が

減ってきた今だからこそ、万年筆が与えてくれるアナログのここち良さを

見直してはいかがでしょうか。

 

万年筆という筆記具

万年筆のインクは、ボディの中のインクタンク(備蓄部)からペン先の下側にある

「ペン芯」を通ってペン先に供給されています。

ペン先の役割はペン芯から供給されるインクをスリット(切り割)を通じて

紙面に届けることですが、同時に繊細な弾力によって加えた力を吸収し

上質な書き心地を与えてくれます。

この様な現在のレベルにたどり着くまでには長い年月と、多くの人の努力がありました。

 

万年筆の誕生

万年筆が実用化する以前のビジネスマン達は商談に出かける時は「 Writing Box 」

と呼ばれる木製のケースを持ち歩いていたそうです。

Writing Box の中には書類作成に必要な羽根ベン・紙・インクの入った瓶が納められ、

フタは適度な傾斜の筆記台になるという非常によく考えられたものでした。

 

現代のようにインクタンクを持つ実用的な万年筆は、1883年のニューヨークで

ルイス・エドソン・ウォーターマンによって考案され、ここから万年筆の歴史が

本格的にスタートすることになります。

 

万年筆の本当の意味

世界的に有名な万年筆コレクターすなみまさみち氏の著書「万年筆クロニクル」

によると、1884年大野徳三郎氏が最初の国産万年筆「蓄墨汁針筆」を発明し

「万年筆」と名付けたとのこと。

 

当時、「Fountain Pen」 は「吐墨筆」「自在泉筆」「自潤筆」「泉筆」などの

日本語名で紹介されていましたが、最終的には「万年筆」に統一され現在に至ります。

筆者は「万年」の意味は、耐久性が高くいつまでも(万年)使えるからと

思い込んでいましたが、いつまでもインクが泉(Fountain)のように湧き続ける

という意味で「万年」が使われたようです。

 

自分に合ったペン先が選べる自由

万年筆の魅力の第一はなんと行ってもペン先が自由に選べるところ。

シャープペンシルやボールペンでも線の太さはいくつか選択できますが、

万年筆の場合は「線の太さ・細さ」「筆記感の硬さ・柔らかさ」「線のタイプ」

などを好みによって選ぶことができるのです。

 

これは単に用途だけではなく、書き手のクセ、好みの書き味、好みの線といった

パーソナルな要望に対応するためのラインナップでもあります。

視覚的な魅力はボディのデザインですが、筆記するここちよさや文字の個性は

ペン先が生み出すので、ペン先選びには時間を惜しまないでください。

 

たくさんのペン先の中から自分に合ったものを選ぶのはワクワクする作業ですが、

最初はいろいろな種類の中からどれを選んで良いのか迷ってしまうこともあるでしょう。

そこで、筆者の経験を元に自分に合ったペン先を選び出すポイントを紹介します。

 

筆圧が強い人にも、弱い人にも

ペン先の材質は「14金」や「18金」が主流ですが、最近では安価な

スチールペン先のモデルも多く売られています。

材質自体の硬さは、18金 > 14金 > スチールの順に硬くなりますが、

ペン先の設計によっても硬さは変化します。

 

一般的には、筆圧の強い人や万年筆初心者は硬めのペン先から始め、

万年筆に慣れて低筆圧でも書けるようになってから柔らかいペン先に移るのが

よいと言われています。

最初から筆圧の低い人には、万年筆の書き味を存分に楽しめるソフトタイプのペン先が

おすすめです。

 

手帳、日記、スケッチブックに最適なペン先のサイズは?

標準的なペン先のサイズは次の様になっています。

極太字(BB)太字(B)>中字(M)細字(F)極細字(EF)

筆者は原稿用紙をメインに万年筆を使用しているので、升目のサイズに合わせて

中字を選ぶことが多いのですが、中字でビジネス手帳に文字を書くと

線が太すぎて罫線の間におさまりません。

 

よく使う満寿屋さんの原稿用紙では、升目のサイズは縦10mm・横15mmですが、

手帳の罫線は4〜6mmが中心なので細字・極細字が適しています。

 

この他に、美しい漢字が書けるセーラーの「長刀(なぎなた)研ぎ」、

毛筆感覚の「長刀ふでDEまんねん」、超ソフトなパイロットの「フォルカン」、

アルファベット向きの「スタブ」、楽譜用の「ミュージック」など

個性的なペン先もいろいろあります。

筆者が仕事用に使っていたのは「ビジネスペンセット」と名付けた3本の万年筆。

 

罫線の幅が4mmのビジネス手帳で使用するために、メインに極細字、見出し用に細字、

アンダーライン用に中字の3本で、それぞれ違う色のインクを入れていました。

取引先との商談で万年筆を使っている人がいると、お互いに仲間に出会ったような

気がして話が弾むのも万年筆の隠れた魅力ですね。

 

お気に入りのカラーインクで気分はハイテンション!

万年筆のもう一つの魅力は好きな色のインクを選べるところ。

気に入った色で書いていると、いつの間にか笑顔になってしまうから不思議です。

以前は、インクは万年筆と同じメーカーのものを入れなければならないとか、

一度入れたインクの種類は変えてはいけないとか言われましたが、

最近の顔料系インクであればきちんと水洗いをしてから入れ替える分には

問題無いと思います。

 

筆者の場合は、暑い季節には寒色系のインク、寒い季節にはやや暖色系のインクに

入れ替えますが、疲れている時には鮮やかなスカイブルーや赤系のインクを入れて

気分を変えます。

 

豊富なカラーバリエーション

最近のインクブームで国産メーカーや有力文具店などが販売している

ボトルインクを合わせると軽く100色を超えます。

海外メーカーのインクを合わせると200色以上ですから、色に敏感な人にはたまりません!

さらに毎年、メーカーや専門店から新色が発表されるので、

インクの魅力に取り憑かれてコレクターのようになる人もいます。

 

紙が変わると発色も変わる

インクの色は紙の色の影響を受けるので、書いてみると思っていた色と違う

ということがあります。

満寿屋さんのクリーム色の原稿用紙では、インクの色に黄色味が少しプラスされるので、

大好きなペリカンのロイヤルブルーは、渋みが増してよい感じです。

インクの色をそのまま再現したい場合にはホワイトかスーパーホワイトの紙を選ぶと

よいでしょう。

 

文字が上手になった?

万年筆は、書き直しが出来ない一発勝負の筆記具です。

そのため、書く前には背筋を伸ばしどの位置から何を書き始めようかと考え、

書き出す時にはいつもより慎重になります。

できれば美しい文字で書くの理想ですが、残念ながら万年筆を使ったからといって

急に上手になることはありません。

ところが、万年筆を使い続けていると文字が安定し乱れが少なくなって来るから不思議です。

 

筆者は、大好きな作家の一人である浅田次郎さんの文体を良く知るために、

約3年かけて中編小説を原稿用紙に書き写したことがあります。

毎朝出勤前に、200字詰原稿用紙で2〜4枚の量を書き写し、全て書き終えた時には

積み上げた原稿用紙が20cmくらいの高さになりました。

 

四角い升目の中に文字を書いていると、文字が大きすぎるとはみ出し、

引いた線が升目に対し曲がっていると気持ちが悪いので無意識に修正するようになります。

3年前の書き始めの頃と比べると、決して美しい文字ではありませんが

バランスがよくなり、文字の「個性」がはっきりしてきました。

 

昔の作家の様に、人柄が滲み出すような文字はとても暖かくチャーミングです。

文字を書くのが苦手、自分の文字があまり好きではないという人がいたら、

万年筆と原稿用紙の組み合わせを試してはいかがでしょうか。

 

長が〜いお付き合いで馴染むペン先

万年筆のペン先は長く使用していると少しずつ摩耗し、使い手のクセに合った形状になり、

滑らかでここち良い書き心地へと変化していきます。

でもそれは、何年も使い続けた場合で、日記をつけたり会議のメモを取ったり

するくらいではもう少し時間がかかるでしょう。

 

最近の有名ブランド品は、最高とは言えなくても中字以上の太さであれば

かなりよい書き心地が得られますので心配はありません。

時間に余裕のある方は、万年筆が自分の手に馴染むまで気長に使い続け、

書き味が微妙に変化してゆくのを楽しむというのもよいのではないでしょうか。

 

万年筆を購入する時のポイント

万年筆は長く使用するものですから、失敗しないためにも購入する際には

事前にいくつかのポイントをチェックしましょう。

 

目的をはっきりさせる

万年筆の用途は、いろいろですが用途によって最適なデザイン・大きさ・ペン先の

サイズなどが異なってきます。

 

シーンに合ったデザインを選ぶ

筆者はかつて取引先との打ち合わせで派手なオレンジ色の万年筆を使用したことが

ありますが、みんなからジロジロ見られて落ち着いてメモが出来なかったことがあります。

その人のライフスタイルにもよりますが、やはりシーンに合ったデザインが無難です。

 

書く文字の大きさでペン先のサイズを決定する

万年筆を使う用途で文字の大きさは決まるので、どこで何に書くのかを考えて

ペン先のサイズを選びましょう。

 

買う前に実際に書いてみる

1000円前後の万年筆であれば現物を確認せずネット購入でもよいと思いますが、

10,000円以上の万年筆であれば面倒でもお店まで行って試筆させてもらいましょう。

紙によってインクの吸収や表面の滑らかさが異なるので、お店で用意している紙ではなく

自分が使用する手帳やノートなどを持参し試筆することをおすすめします。

 

ペン先には個体差がある

モデルが同じでもペン先には微妙な個体差があり、また同じ細字でもメーカーによって

実際の太さが違う場合があります。

 

太さやバランスなど握りやすさを確認する

一般に手の小さな人には細めのモデル、大きな人には太めのモデルが似合っていますが、

こればかりは好みなので自分が握りやすいものを選びましょう。

また、万年筆を立て気味に書く人は「重心」が後寄りのモデルは書きづらいので避けましょう。

 

ケースも忘れずに

万年筆は使い捨ての筆記具ではなく、長く使用するものですからペンケースにボールペン

などと一緒にいれるのはおすすめ出来ません。

増える可能性もあるので、2〜3本入る専用のペンケースを用意してあげましょう。

 

万年筆と過ごす大切な時間

書き直しが出来ない万年筆で文章を書く時には、頭の中を整理してから

書き始める必要があります。

手紙であれば相手と最後に会った時の記憶、相手の健康状態、

相手に伝えなければならないことなどに考えを巡らせることでしょう。

 

そして、いつの間にか忘れていたことや気づかなかったことを発見する。

万年筆は、私たちに大切なことを考える時間を与えてくれるような気がします。

皆さんも、忙しい毎日の中で万年筆と過ごす時間を持ってはいかがでしょうか。


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