腸内環境が私たちの体と心に大きく影響を与えていることが近年の研究で分かってきました。
腸は食べ物を消化吸収するほかにもさまざまな働きをしているよう。
今回は腸とメンタルの不思議な関係にスポットをあててみます。
生き物はまず腸ありき
腸内環境を整える「腸活」に注目が集まっています。
体の不調が改善したり免疫力アップにつながるのはもちろんのこと、
美肌も腸内環境からというのが常識になりつつある昨今。
腸は私たちの体でどんな働きをしているのでしょうか。
地球上にはじめて生物が誕生したのは38億年前といわれています。
当時の生命体は消化器官を持っていましたが、現在のような脳はなかったのだそう。
ミミズのように消化器官のみを持ち、エネルギーを消化吸収して子孫を残す。
消化管は原始的な脳の役割も果たしていて、それだけでこと足りていた時代が
長かったのです。
生物が進化して独立した脳を持つようになってからも、腸は神経系等と連携して
脳とつながり密接に連絡を取り合っています。
そして20世紀初頭に英国の生理学者ベイリスとスターリングの研究によって
ホルモンの存在が明らかになり、その後の研究によってホルモンの多くが
腸と腸内に生息する細菌によって作られていることも知られるようになりました。
これらのホルモンが体の内外で起こったことを各器官に伝え、それぞれの機能を
誘導する形で心身に大きな影響を及ぼしているのです。
腸内環境が精神をコントロール?
ヒトの体に共生する微生物群は「マイクロバイオーム」と呼ばれていて、
消化器や皮膚、呼吸器、生殖器など様々な場所に常在しています。
中でも腸の中に存在する細菌が最も数が多く、数では100兆以上、重さにするとなんと
1,5kg以上になるのだそう。
ふだんはその存在を意識することはないものの、私たちと共生状態にあるこの
マイクロバイオームは宿主の健康状態や免疫系統を左右し、肥満や糖尿病などの
生活習慣病、アレルギーやアトピー性皮膚炎など、さまざまな疾患とも密接に
関わっています。
また腸とマイクロバイオームはビタミンやホルモンを生成し、それを通じて精神状態にも
影響を与えるため、メンタルヘルスとも大きな関わりを持っていることが分かっています。
脳と腸のつながりを研究するカリフォルニア大学ロサンゼルス校の
エムラン・メイヤー医学博士の実験によると、うつ病を発症したマウスの
マイクロバイオームは構成に変化を起こし、それを健康なマウスに移植すると
これらのマウスたちにもうつ病の症状が現れたそう。
無菌環境で飼育されたマウスと、普通の環境で飼育されたマウスとでは、
ストレス下での行動に違いが見られたというデータも発表されています。
近年では腸内環境の善し悪しと人間の性格の関係を探る研究も行われているほど。
腸とマイクロバイオームのコンビは「もう一つの脳」といえるほど重要。
ホットなテーマとして数百に及ぶ研究が行われているのです。
腸内環境とメンタルヘルス
喜怒哀楽といった感情やストレスはすべて頭で感じるものというイメージがありますが、
実は腸も外からの刺激にかなり敏感に反応しています。
テストやプレゼン前に緊張のあまりトイレが近くなる、腹痛がする、
旅行に出かけると便秘気味になるといった経験をした方も多いのではないでしょうか。
また「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンやドーパミンといったホルモンも
その多くが腸で作られています。
ドーパミンは快楽を与えセロトニンは安心感を生み出す物質。
いずれも私たちのメンタルヘルスに大きく関わっています。
美味しい物を食べると幸せな気持になるのも、そんなところにも
関係があるのかもしれませんね。
ではどうやって整えればよいのか?
腸内には大きく分けて善玉菌・悪玉菌・日和見菌の三種類が存在しています。
腸内細菌の中で一番数が多いのは善玉にも悪玉にも属さない日和見菌。
どっちつかずの菌で普段はおとなしいのですが、悪玉菌が優勢になると
そちらになびく性質があります。
次に優勢なのがビフィズス菌や乳酸菌などに代表される善玉菌。
消化吸収を助けホルモンやビタミンを生成し、免疫機能を高めるといった
頼もしい働きをしています。
しかし、何らかの影響で悪玉菌の増殖が進んでしまった時、
体に害をなす腸内腐敗が起こり腸内環境が悪化します。
このため心身の健康を保つには善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスを
上手に保つことがカギになってきます。
忘れがちな「運動」と「水分補給」
腸内バランスをキープするには善玉菌が元気になれるライフスタイルを心がけること。
そのために重要なのは「食事」「運動」「水分」の3つです。
健康のため食生活を意識することは多いですが、運動と水分については二の次に
なってしまうことも多いもの。
適度な運動は血流を促し、酸素が全身にめぐることで自律神経に影響を与え、
腸の活性化を促します。
健康維持には激しい運動でなくても、ウォーキングやヨガ、ストレッチ程度の
軽いエクササイズでOK。
またコーヒーやお茶、ビール等は飲むけれど、普通の水はあまり飲まない
という人も多いものです。
カフェイン入りドリンクやお酒は利尿作用が強く、自分ではしっかり
水分補給しているつもりでも体は脱水症状を起こしているケースもみられます。
水分が不足すると血液濃度が高まり、新陳代謝が鈍ることで内臓に負担をかけ、
排泄サイクルが乱れてしまうといった悪影響が現れます。
朝起きたらコップ一杯の水や白湯を飲み、朝散歩やストレッチ。
手間も費用もかからないカンタン腸活を日々の習慣にしていきましょう。
いい腸を作る食品とは
腸が喜ぶ食品は野菜と発酵食品です。
ヨーグルトや味噌、ぬか漬けやキムチなどの発酵食品には乳酸菌やビフィズス菌などの
善玉菌がたくさん含まれています。
近年では「プロバイオティクス」という呼び方も知られるようになりました。
また腸のおそうじ役として活躍してくれる、野菜や果物・豆類・海藻などの
食物繊維を含む食品を積極的に取り入れることも大切です。
そしてオリゴ糖やイヌリンなど腸内細菌のエサとなってくれる「プレバイオティクス」
も腸内健康サポートに役立ちます。
<オリゴ糖を多く含む食品>
大豆などの豆類・たまねぎ・ ねぎ・ごぼう・にんにく・アスパラガスなど
<イヌリンを多く含む食品>
キクイモやニンニク、ゴボウ、玉ねぎなど
発酵食品に含まれる善玉菌は加熱でほとんどが死んでしまうので、
生のまま食べるほうが効果的。
また1つの食品をずっと摂り続けるより、ある程度バラエティがあったほうが
よいといわれています。
いずれも天然の食材から摂るのがベストですが、忙しい時はサプリメントで補うのも一案。
反対に控えた方がよいのはファストフードや加工食品、そして深酒です。
これは腸に必要な要素がほとんど含まれていないうえ体に大きな負担を
かけてしまうため。
完全にカットできなくても、ほどほどを心がけた方がよさそうです。
お腹ケアは全身ケア
今回は腸内健康とメンタルの関係、そして腸活フードについてご紹介しました。
腸内細菌のバランスはライフスタイルだけでなく年齢によっても変化します。
加齢によって自然に悪玉菌の割合が増えてきてしまうとのこと。
こころと体の健康のためにも、意識して腸内ケアを続けていきたいですね。
<参考文献>
『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』エムラン・メイヤー 著
腸内環境とメンタルヘルス
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