『リリーのすべて』や『チョコレートドーナツ』など、実話をもとにしたLGBTQを題材にした映画が注目される一方、フィクション映画にも数多くの名作がそろっています。
本記事では、刺激的で美しい女性同士の愛を描いた映画『アデル、ブルーは熱い色』『アンダー・ハー・マウス』のあらすじや魅力をまとめます
生々しく美しい若い二人の恋『アデル、ブルーは熱い色』
『アデル、ブルーは熱い色』は、フランス人漫画家のジュリー・マロによる漫画が原作の恋愛映画です。
第66回カンヌ国際映画祭で最高賞、パルム・ドールを受賞し、話題となりました。
アブテラティフ・ケシシュ監督が原作を偶然見かけ、興味を持ったことから製作が始まったそうです
教師を志す女子高生と美学生の激しくも切ない恋模様を描いています。
あらすじ
ある日、自分のセクシャリティに迷いを持つ女子高生、アデル(アデル・エグザルホプロス)は、街中で青い髪をした美学生のエマ(レア・セドゥ)と出会い、一目惚れする。
その後、再会を果たした2人は激しく惹かれ合うようになるが、社会人になった2人の気持ちは徐々にすれ違っていく…。
ドキュメンタリー映画に近い「生々しさ」
『アデル、ブルーは熱い色』の魅力は、まるでドキュメンタリー映画と錯覚してしまうほどの「生々しさ」です。
主演のアデルとレアは、台本を短期間だけ渡されただけで、本編の演技はほとんどアドリブで挑んだといいます。
激しい濡れ場や、咀嚼音満載の食事シーン、鼻水だらけの泣きの演技など、あまり上品とは言えないシーンが多数登場しますが、この飾らないリアルさこそ、観客の心を揺るがす重要なポイントなのです。
まるで、アデルという、ひとりの少女の人生をのぞき見している感覚に陥るような、不思議な魅力を持つ映画です。
「カップル」の幻想を打ち砕く恋愛映画
女性同士の過激なベッドシーンばかりに注目が集まっている本作。
しかし、注目すべきポイントは、アデルとエマの2人が同棲を始めた後の関係性です。
付き合いたての頃は、相手のすべてが魅力的に映るもの。
堅実な両親を持ち、教師という安定した仕事に就くことを望んでいるアデルは、自由主義の両親を持ち、画家というクリエイティブな職業を目指している、自分とは正反対のエマに憧れを持ちます。
しかし、一緒に生活をするようになってからは、互いの価値観の違いが浮き彫りになっていき、いわゆる「倦怠期」を迎えます。
これは、性愛者に関係なく、誰もが共感できるテーマです。
「恋愛」という普遍的なテーマを同性カップルに置き換えて描いた作品です。
同性カップルだから絆が強い、どんな困難でも乗り越えられるといった空想論は描かれておらず、ひと組のカップルの間に起こった出来事を淡々と描いています。
このポイントこそが「恋愛映画」という枠を超えた、名作と呼ばれる理由でしょう。
出演:アデル・エグザルホプロス レア・セドゥ
監督:アブテラティフ・ケシシュ
脚本:アブテラティフ・ケシシュほか
公開年:2013年
製作国:フランス
ステレオタイプにとらわれない女性の挑戦『アンダー・ハー・マウス』
『アンダー・ハー・マウス』は、婚約中の女性と恋に奔放な女性の恋模様を描いた映画です。
トロント国際映画祭で特別招待作品として上演されるほか、ヌーボーシネマ映画祭やカルガリー国際映画祭など、名誉ある映画祭に出品された革新的なLGBT映画です。
「女性目線」にこだわるため、エイプリル・マレン監督をはじめ、脚本家やプロデューサー、スタッフ全員が女性というメンバーで製作され、話題を呼びました。
あらすじ
ファッション雑誌の編集者のジャスミン(ナタリー・クリル)は恋人と結婚を控え、順風満帆な日々を送っていた。
ある日、ジャスミンは友人と訪れたバーで、中性的な魅力を持つプレイガール、ダラス(エリカ・リンダ―)と出会い、やがて恋に落ちる。
激しく愛し合う2人ですが、ジャスミンは婚約者と別れられずにいた…。
徹底した「女性目線」!
徹底した「女性目線」が話題の『アンダー・ハー・マウス』。
その徹底ぶりは、第26回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で来日した際のインタビューでエイプリル監督は、本作との比較として何度も名前が挙がった『アデル ブルーは熱い色』について「男性目線の描写が多い」と指摘したほど。
確かに本作は、女性目線ならではのロマンチックな描写がたくさんあります。
例えば、2人が夜のバーでキスを交わすシーン。ダラスがジャスミンに顔を近づけますが、ジャスミンは「それ以上、近づかないで」と拒みます。
しかし、ダラスは一呼吸置いた後、ジャスミンに顔を寄せ、やがてキスをするのです。
この独特の「間」は、少女漫画や女性向けドラマで特徴的な手法といえます。
ベッドシーンは、映像美のために多少、誇張表現がありますが、「精神的な繋がり」という部分がしっかりと描かれています。
以上のような「女性がグッとするポイント」が多いことが、人気の理由。
「枠にとらわれたくない女性」の物語
本作で注目すべきポイントは、枠にとらわれないダラスの生き方です。
女性でありながらも大工として働き、中性的なファッションを好むダラス。
自立心旺盛な彼女の生き方からは、元来の「女性」というイメージにとらわれない、力強さが感じられます。
さらに、作中では「トムボーイ(男っぽい女性、ボーイッシュな女性を指す言葉)」と呼ばれたダラスが「そんな単純なものじゃない」と答えるシーンもありました。
ダラスは、ボーイッシュになろうとしているのではなく、ただ「自分らしく生きている」だけなのです。
トムボーイという「ジャンル」にカテゴライズされてしまうことを嫌がるダラスに、共感する方も多いのではないでしょうか?
現在はLGBTの言葉にQ(クスチョン=LGBTのどれにも当てはまらない性)が加えられたり、ハリウッドスターがセクシャル・フルイディティ(流動的なセクシャリティ=時期によってセクシャリティが変わる)を公言したり、セクシャルマイノリティの枠が更に広くなってきました。
このような現代のLGBTの風潮を盛り込みこんだ本作は、LGBT映画の中でも、多くの共感を得る作品といえるでしょう。
出演:ナタリー・クリル エリカ・リンダ―
監督:エイプリル・マレン
脚本:ステファニー・ファブリツィ
公開年:2016年
製作国:カナダ
今後も映画の公開情報をチェックしよう
『チョコレートドーナツ』をきっかけに、『アデル、ブルーは熱い色』や『リリーのすべて』など、最近はLGBTQを題材とする映画が話題になることが増えてきました。
今回ご紹介した2作以外にも、LGBTQ映画には数々の名作がそろっています。
今後もaround編集部では、LGBTQ映画情報をピックアップしてくので、ぜひチェックしてください!
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